全然楽しくない全然難しい話

「入水」とかいて「じゅすい」とよみます。川や海に身を投げて自殺することです。「にゅうすい」じゃあありません!(テレビでたけしが間違えても、誰も指摘しない)
 といっているうちに「にゅうすい」でも可になりそうですね(-o-;)
 というのも「発足」は「ほっそく」と読むのですが、いまや会社の社長さんまでもが「はっそく」と読んでいて、辞書にも「はっそくとも」と書かれるようになってます。
 中学時代「はっそく」と読んだらバッテンつけられたのに……。

 と、嘆いてもはじまらない。わたしも沢山間違って読んでました。全ルビの習慣がなくなっちまったせいですね。
 なんでも、戦争に負けたあと「外国ではルビなどふらん」という人がいて(ほとんどの国に漢字がないから当たり前なのに)「日本は遅れている!」と声が高くなり、新聞社などはルビをいちいち振るのは金がかかるから、経費削減のために、喜んでルビなしに飛び付いたとか。(本当かどうか裏はとっておりません。どこかで読んだ知識)

 全ルビ撤廃の弊害もあり、いまや間違った読み方のほうが普及していて、もとの漢字までもが変わってしまったりしてますが、常に言葉というものは変わるものなので仕方がないのでしょう。
 たとえば「独擅場」(どくせんじょう)。これは「どくだんじょう」と間違って読まれて、漢字も「独壇場」になっちまい、もともとのは忘れ去られてしまいましたね。(わたしも、いちども「どくせんじょう」といったことがありません)
「消耗」これは「しょうこう」が正しい読み方なのに、「毛」という字が見えるせいか、多くの人が「しょうもう」と読んでいるうちに、いまや「しょうこう」と読む人は、ほとんどいなくなってしまいました。(わたしもそうです)

 先日「ぜんぜん……」という言葉の使い方が逆になってきて(否定があとにくる言葉だったのに、いまはそうではない)、どうも嫌だという話をしていたら、聖さんが、もともと「ぜんぜん……」は否定に結びつく用法だけではなく、いまの使い方を、昔もしていたのだと指摘してくださいました。
 調べてみると、なるほど両方の使い方がありました。

 日本語大辞典から引用しますと、まず「ぜんぜん、やさしいんだぜ」(菊田一夫「君の名は」)という使い方があります。
 さらに「アプレゲールは、全然エライよ」(「安吾巷談」坂口安吾)など。
 でも「全然そんな心当たりがないです」(「不良児」葛西善蔵)と、否定がつづく用法も。
 葛西善蔵のは1922年の作品で、あとは1950年代です。1900年~1910年代に作品を多く残した夏目漱石にも否定がつづく用法があるので、00年代から50年代のあいだに、変化があったのかもしれませんね。あるいは、両方共存していたのかもしれません。
「全然似寄らぬマドンナを双幅見せろと逼ると同じく」(夏目漱石「吾輩は猫である」)

 変化していたとしたら、まず「否定があとにくる用法(ちっともという意味)」→「非常にという意味」→「否定があとにくる用法(ちっともという意味)」→「非常にという意味」となっているわけですね。

(追記)
 ひじりさんのコメントに応えようとして、もう一度、日本国語大辞典をひいてみたら、こう書いてありました。
もともとは肯定表現にも否定表現にも使うことができた。否定表現との結びつきが強まるのは大正末から昭和にかけてである。


(追記終わり)

「"ら”抜き言葉」も、可能の意味を表すときは、たとえば「変えられる」ではなく「変えれる」という人が、いまや多いことでしょう。小説を書いていて、どうするか迷うところです。わたしがいま書いているのは、時代小説なので「ら」を抜かずに書きますが、抜いてもいいんじゃないかと思うこともあります。

 いや、言葉ってホント難しいですね。

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by ashikawa_junichi | 2013-02-13 21:30 | 小説・本・仕事 | Comments(6)
Commented by 足立区のおじさん at 2013-02-13 23:24 x
「全然」に関しては、明治時代の用法でも否定と結びつかないモノがあったと思います。で、1960年代には「全然イカしてる」という言い方が定着していましたよね。
で、小林信彦が遡上にあげる「悩ましい」ですが、これは性的な意味に繋がるのだ、というのが小林信彦の主張で、氏は小生の心の師匠なので、「その通りだ!」と思っていたところ、性的ではない、ということを証明してしまった人がいて、明治の文豪が「悩み多いことである」という意味で「悩ましい」を使っていた、という実例を挙げていたので、あれれと思ってしまいました。我が心の師匠の分が悪くなってしまって。
ま、僕の結論としては、他人はどうあれ、自分は自分の好みで言葉を選んで使えばいいのだ、と言うことでありまして。
だから僕は「悩ましい」は性的な意味に繋げて使いますし、「全然」も否定に繋げて使う方がしっくりきます。
漢字の読み方は、例に挙げてらっしゃるモノのほとんどを間違えて読んでました。「発足」以外は……。
で、「御用達」はゴヨウタシ以外、許容したくないですけど。
Commented by 幡大介 at 2013-02-13 23:55 x
海音寺潮五郎先生も「ほぼ百パーセント」という意味で「全然」をよく使ってますね。
「全然洋式の暮らしである」
など。
Commented by ひじり at 2013-02-14 00:03 x
昔の日活映画では、全然格好いいや、なんて言い方もしてましたねぇ。もともとは、平安時代に肯定の意味で使っていたという記述を読んだ記憶あったけど、定かではありません。
Commented by ashikawa_junichi at 2013-02-14 00:38
>足立区のおじさん
 単なる連想ですが「♪気絶するほど悩ましい♪」というチャーの曲は、性的な意味でしたね。
 時分がしっくりする使い方をしていればよいのですよね。
 でも、あまりこだわると「偏屈な爺だ」と思われそうです(^o^;)
Commented by ashikawa_junichi at 2013-02-14 00:40
>幡 大介さん
 おお、海音寺先生も、そう使っておられましたか!
 否定につづく使い方をしていた時期は、ほんの短いあいだだったのかもしれませんね。
Commented by ashikawa_junichi at 2013-02-14 00:43
>ひじりさん
 日本国語大辞典には「もともとは肯定表現にも否定表現にも使うことができた。否定表現との結びつきが強まるのは大正末から昭和にかけてである」とありました。
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