『深夜食堂』と寅さん映画

 ぼくの文庫小説の著者紹介文に「人情ものには定評がある」と書かれていることが多いのですが、定評があるかどうかは知りませんが(編集者さんの好意でしょうが)、けっこう人情ものを書いています。

 実は、若いころは「人情もの」というものが苦手でした。というか、反撥していたんですね。
 若いころって湿ったものが苦手で、「人情」とか「浪花節」的なものに反撥していたのです。
 その筆頭が寅さん! そう、『男はつらいよ』でした。
 最初の3作までは映画館で観たのですよ。映画はなんでも観ようというスタンスだったのです。でも、3作観て、もういいやと思いました。(ひょっとしたら1作しか観てないかもしれません。記憶が定かでないので)
 藤圭子が好きで、浅草公会堂のコンサートにいったことがありますが、第一部は寅さんの映画でした。もちろん、映画は観ずに、第二部のコンサートだけ楽しんだことを思い出します。

 ただ、人情ものに対する反撥も、ベタなものに対しての反撥でした。
 テレビドラマの『木枯らし紋次郎』は大好きだったのです。(原作はずいぶんあとになって読みました)
 紋次郎も、底に流れているのは「人情」ですから。表面的なベタな人情ものに反撥していたのですね。

 ところが、最近は、ベタな人情ものに涙するようになってきました。
 そう! 今日の夜中に放送する『深夜食堂』のようなドラマにです。まあ、『深夜食堂』は、人情ものというほかに、全体的に醸しだす懐かしいような心をくすぐる雰囲気が素晴らしいのだと思いますが、若いころは「こんなクサいドラマは俺は観ない」といっていたかもしれません。

 歳とって、湿ったものに対する反撥心がずいぶんと薄れてきたようです。
 
『深夜食堂』に涙して、ぼく自身もつたないながら人情時代小説を書いていて、心の中にある「人情」や「浪花節」的なるものの存在がぐっと大きくなっているような気がします。
 ということは……。いまなら寅さん映画を楽しめるに違いない! ということです。
 寅さんファンには、なにをいまさら!といわれるはずですが、逆にいえば、これから、ほとんどの寅さん映画を、この歳で初見で観賞できるということになります。これはこれで、素敵なことではないですか!? うふふ。

※画像の芦川いづみさんは、早くに引退されてしまいましたから、寅さんのマドンナにはなりませんでしたねえ。残念……。
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by ashikawa_junichi | 2014-10-28 15:57 | 映画・演劇 | Comments(2)
Commented by 足立区のおじさん at 2014-10-28 16:50 x
「男はつらいよ」全盛期、高校生〜大学生だった僕は洋画ばっかり見ていたし、松竹映画のカラーがどうにも古くさくて、松竹の映画館には足が向きませんでした。それに、若い頃は「義理人情」と言ったウェットな物への抵抗感・拒絶感が強くありましたし。クールで非情なものがカッコイイと……。
で、ご指摘の通り「木枯らし紋次郎」は、表面上は「義理人情を否定したハードボイルド」を装うけれど、非情に徹しきれなくて助太刀したりして絡んでしまうわけで……。
トシを取ってくると「人情物もまたよし」という気分になって、ベタな人情時代劇なんかを見ておんおん泣いてしまったりします。
寅さんも、渥美清が元気だった頃まではきちんと見直したいなあと思うのですが……やっぱり渥美清の芸の力が凄いし。
Commented by ashikawa_junichi at 2014-10-28 22:00
>足立区のおじさん
 おお、まったく同じですね。
 若いころは、やはりウェットなものを敬遠しがちですね。
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